車椅子に座っていると身体が左右に傾く、骨盤が前へ滑る、頭が下がるなど、姿勢を保ちにくくなることがあります。
こうした姿勢の崩れは、筋力低下だけで起こるわけではありません。
身体の状態や痛み、疲労、車椅子の大きさ、足台の高さ、クッションや背もたれが合っていないことなど、複数の原因が重なっている場合があります。
姿勢が崩れる原因を筋肉だけに決めつけないことが大切です。
車椅子やクッションを変える前に、いつ、どのように姿勢が崩れるのかを確認しましょう。
この記事では、車椅子で姿勢を保ちにくくなる主な原因と、家庭で確認できるポイント、運動や姿勢保持用品を取り入れる前の注意点を紹介します。
車椅子で姿勢を保てない主な原因
車椅子で姿勢を保ちにくいときは、本人の身体だけでなく、車椅子との適合や使用環境も含めて考えます。
主な原因は、次のように分けられます。
筋力や身体機能が変化している
体幹や首などの筋力が低下すると、身体や頭を支え続けることが難しくなる場合があります。
脳卒中による片麻痺、神経や筋肉の病気、事故による障害などにより、左右の力の入り方や姿勢を立て直す反応が変化することもあります。
ただし、身体の傾きや前滑りが見られても、筋力だけが原因とは限りません。
痛みや圧迫を避けようとしている
お尻や背中、股関節、膝などに痛みがあると、本人が無意識に痛い部分を避ける姿勢を取ることがあります。
同じ場所に圧が集中している場合も、身体を傾けたり、座面の前へ移動したりする原因になります。
赤み、傷、腫れ、熱っぽさ、痛みなどがある場合は、座り方だけで解決しようとせず、医療機関や担当する専門職へ相談しましょう。
疲れや体調の変化がある
座った直後は安定していても、時間がたつと身体が傾いたり、頭が下がったりする場合は、疲労が影響している可能性があります。
睡眠不足、発熱、食欲低下、薬の影響などによって、いつもより姿勢を保ちにくくなることもあります。
車椅子の大きさが身体に合っていない
座面が広すぎる、奥行きが長すぎる、背もたれの高さが合わないなど、車椅子と身体の寸法が合っていないと姿勢が崩れやすくなります。
座面が広すぎると身体が左右へ動きやすくなり、奥行きが長すぎると深く座れず、骨盤が前へ滑ることがあります。
足台やひじ掛けの位置が合っていない
足台が高すぎたり低すぎたりすると、太ももや足裏で身体を支えにくくなります。
ひじ掛けの高さが合っていない場合も、肩が上がる、身体が片側へ傾くなどの原因になることがあります。
クッションや背もたれが合っていない
クッションが柔らかすぎる、沈み込み方が身体に合わない、前後や上下を間違えて使用しているなどの理由で、骨盤が安定しないことがあります。
長く使用したクッションは、見た目に問題がなくても内部がへたっている場合があります。
姿勢の崩れ方から確認するポイント
姿勢を直す前に、どのように崩れているかを観察します。
| 見られる状態 | 確認したいこと |
|---|---|
| 身体が左右に傾く | 左右の麻痺や痛み、座面幅、体幹支持、ひじ掛けの高さ |
| 骨盤が前へ滑る | 座面奥行き、足台の高さ、背もたれ角度、クッション |
| 頭が前や横へ倒れる | 疲労、首や体幹の支持、背もたれやヘッドサポート |
| 身体がねじれる | 骨盤の向き、関節の動き、痛み、足の位置 |
| 時間がたつと崩れる | 疲労、座る時間、休息方法、クッションの状態 |
同じように見える姿勢の崩れでも、原因や必要な対応は人によって異なります。
無理に身体を真っすぐに戻すのではなく、本人が痛がっていないか、呼吸や表情に変化がないかも確認してください。
家庭で確認できる車椅子のチェック項目
座りにくそうなときの確認項目
・お尻が座面の奥まで入っているか
・左右のお尻に均等に座れているか
・足が足台に無理なく載っているか
・膝や股関節が窮屈になっていないか
・クッションの前後や表裏を間違えていないか
・衣服やポケットの中身が身体を圧迫していないか
・ベルトやパッドが強く当たっていないか
・長時間同じ姿勢になっていないか
座り直しを行う場合は、介助者だけで無理に持ち上げたり引っ張ったりせず、普段教わっている移乗・介助方法で行いましょう。
スライディンググローブで座り直しの負担が軽くなりました
私は車椅子に座っているうちに骨盤が傾き、姿勢が崩れることがあります。以前は介助者が手で身体や衣服を動かして座り直していましたが、滑りやすい介助用具グローブ(スライディンググローブ)を使うようになってから、本人・介助者の両方の負担が大きく軽くなりました。
現在は、骨盤の位置を整える日常的な座り直しに使っています。ただし、身体の状態や車椅子、クッションによって適した介助方法は異なるため、誰にでも同じ方法が使えるわけではありません。
頻繁に前へ滑る、座り直してもすぐに傾くなどの場合は、車椅子の調整が必要な可能性があります。
クッションやベルトを自己流で追加してもいい?
身体の横にクッションやタオルを詰めると、一時的に姿勢が安定したように見えることがあります。
しかし、詰め方や位置によっては、身体の動きを妨げたり、一部に圧が集中したりする可能性があります。
また、骨盤ベルトや体幹ベルトは、姿勢を支える目的で使われることがありますが、取り付け位置や締め方が適切でなければ安全につながりません。
ベルトは、身体を車椅子へ強く縛り付けるためのものではありません。
市販品や手作りのベルトを自己判断で追加せず、車椅子や姿勢保持に詳しい専門職へ相談してください。
大人の姿勢保持装置や車椅子シーティングの選び方は、次の記事で詳しく説明しています。
姿勢保持装置が必要になる場合もある
車椅子本体やクッションの調整だけでは姿勢を保つことが難しい場合は、身体に合わせた姿勢保持装置が検討されることがあります。
姿勢保持装置には、座面や背もたれ、体幹サポート、ヘッドサポートなどを組み合わせて、身体に必要な支えをつくるものがあります。
現在の補装具費制度では「姿勢保持装置」という名称が使われています。以前は「座位保持装置」と呼ばれていました。
姿勢保持装置・車載用姿勢保持装置・車椅子の違いは、次の記事で説明しています。
運動をすれば姿勢を保てるようになる?
身体を動かすことは、筋力や関節の動き、体力を維持するうえで大切です。
一方で、座る姿勢を保ちにくい人に、腹筋運動や身体をひねる運動、脚を持ち上げる運動などを一律に勧めることはできません。
障害や病気、関節の状態、骨折リスク、心肺機能などによって、避けるべき動作や適切な運動量が異なるためです。
運動を始める前に確認したいこと
・本人の病気や障害に合った動作か
・痛みや強い疲れが出ていないか
・転倒や車椅子からのずり落ちの危険がないか
・呼吸や顔色に変化がないか
・医師や理学療法士・作業療法士から注意されている動作がないか
本人に合った運動を知りたい場合は、医師や理学療法士、作業療法士などに相談し、安全な方法を教えてもらいましょう。
運動だけで姿勢を直そうとせず、車椅子の調整やクッション、休息方法なども一緒に見直すことが大切です。
早めに相談したい変化
次のような状態がある場合は、家庭での座り直しやクッション調整だけで様子を見ず、医療・リハビリの専門職や車椅子事業者へ相談しましょう。
専門職へ相談したいサイン
・急に姿勢を保てなくなった
・以前より身体の傾きが強くなった
・痛み、しびれ、腫れがある
・皮膚に消えにくい赤みや傷がある
・呼吸や食事がしにくそうになった
・頭を保てなくなった
・車椅子からずり落ちそうになる
・座り直しても短時間で姿勢が崩れる
特に、急な麻痺、ろれつの回りにくさ、意識状態の変化などを伴う場合は、姿勢の問題だけと考えず、速やかに医療機関へ相談してください。
まとめ
車椅子で姿勢を保てない原因は、筋力低下だけではありません。
麻痺や関節の動き、痛み、疲労、車椅子の寸法、足台の高さ、クッションや背もたれなど、複数の要因が関係していることがあります。
まずは、いつから、どの方向へ、どのくらいの時間で姿勢が崩れるのかを確認しましょう。
クッションやベルトを自己流で追加したり、一律の筋力トレーニングを行ったりするのではなく、医師、理学療法士・作業療法士、義肢装具士、車椅子事業者などに相談し、本人の身体と生活に合った方法を検討することが大切です。


コメント