大人が車椅子に座っていると、身体が左右に傾く、骨盤が前へ滑る、頭を支えにくいなど、姿勢を保つことが難しくなる場合があります。
このようなときに検討されるのが、身体の状態に合わせて座る姿勢を支える姿勢保持装置や車椅子シーティングです。
「座位保持装置」は以前使われていた名称です。
現在の補装具制度では「姿勢保持装置」という名称が使われています。この記事では、今も広く使われている従来の呼び方にも触れながら、現在の名称に合わせて説明します。
大人の場合は、成長への対応よりも、病気や障害の進行、筋力低下、関節の動き、変形、痛み、呼吸や食事のしやすさなどを考えながら調整することが大切です。
この記事では、大人が姿勢保持装置や車椅子シーティングを選ぶときの考え方、持ち運びや載せ替えの注意点、補装具費を利用するときの流れをわかりやすく紹介します。
大人にも姿勢保持装置やシーティングが必要になることがある
姿勢保持装置は、子どもだけが使うものではありません。
脳性麻痺などによって以前から姿勢保持が必要な人だけでなく、事故や病気による中途障害、神経や筋肉の病気、加齢による筋力低下などによって、大人になってから座る姿勢を保ちにくくなる場合もあります。
たとえば、次のような状態が見られるときは、クッションの変更や車椅子シーティングの見直しが必要になることがあります。
姿勢を見直したいサイン
・座っていると身体が左右へ傾く
・骨盤が前へ滑り、浅く座ってしまう
・頭や首を支えにくい
・同じ場所に圧が集中しやすい
・姿勢が崩れると食事や呼吸がしにくい
・車椅子に長く座ると疲れや痛みが出る
・クッションやベルトを調整しても安定しない
姿勢が崩れる原因は一つではありません。車椅子の寸法、座面や背もたれの形、足台の高さ、クッションの硬さ、身体の動かし方などが複数重なっていることもあります。
そのため、単にベルトを強く締めたり、クッションを追加したりするのではなく、身体と車椅子の両方を確認することが重要です。
大人の車椅子シーティングで確認するポイント
シーティングとは、利用者の身体状況や生活目的に合わせて、座面、背もたれ、クッション、足台、各種サポートなどを調整し、座りやすい姿勢をつくることです。
大人のシーティングでは、姿勢を真っすぐに見せることだけでなく、安全性、快適性、身体機能、介助のしやすさ、日常生活での使い方をまとめて考えます。
骨盤と座面の安定
座る姿勢の土台になるのが骨盤です。
骨盤が後ろへ倒れたり、前へ滑ったりすると、背中が丸くなる、頭が前へ出る、身体が左右へ傾くなど、ほかの部分にも影響します。
座面の奥行きや幅、クッションの形、足台の高さなどを確認し、骨盤が無理なく安定する状態を目指します。
体幹・頭部・脚のサポート
身体の傾きがある場合は、体幹パッドや背もたれの形状を調整します。頭を保ちにくい場合は、ヘッドサポートが必要になることもあります。
ただし、サポートを増やしすぎると本人の動きを妨げたり、圧が集中したりする可能性があります。
身体を完全に固定するのではなく、必要な部分を支えながら、本人が使える動きを残せるかも確認します。
クッションと圧の分散
長時間車椅子を使用する場合は、座り心地だけでなく、臀部や太ももなどに圧が集中していないかも重要です。
クッションには、ウレタン、空気、ジェルなどさまざまな種類がありますが、素材だけで良し悪しは決まりません。
利用時間、姿勢、移乗方法、体重、発汗、管理のしやすさなどを含めて選びます。
ティルト・リクライニングは何のために使う?
姿勢を保ちにくい大人には、ティルト機能やリクライニング機能のある車椅子が検討されることがあります。
ティルトは、座面と背もたれの角度を保ったまま、座席全体を後方へ傾ける機能です。
リクライニングは、座面に対して背もたれの角度を変える機能です。
| 機能 | 主な特徴 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| ティルト | 座席全体の角度を変える | 姿勢を保ちながら休息しやすいか |
| リクライニング | 背もたれの角度を変える | 骨盤のずれや身体の滑りが起きないか |
| ティルト&リクライニング | 両方の角度を調整できる | 本人の身体状況と介助方法に合うか |
どの機能が必要かは、障害名や年齢だけでは決まりません。
休息、食事、移動、移乗、呼吸、介助など、車椅子を使う場面を確認して選ぶことが大切です。
姿勢保持装置には調整式と身体に合わせて作るタイプがある
姿勢保持装置には、パッドやベルトなどの位置を調整できるタイプや、身体の形に合わせて座面・背もたれを製作するタイプなどがあります。
調整式は身体状況の変化に対応しやすい一方、定期的な確認と再調整が必要です。
身体に合わせて作るタイプは、複雑な変形や強い姿勢の崩れに対応できる場合がありますが、身体状態が変わったときには再評価が必要になることがあります。
姿勢保持装置は、強く締め付けて身体を動かなくするためのものではありません。本人の身体状況や生活目的に合わせて、必要な支持と動きやすさのバランスを考えます。
持ち運びや車椅子への載せ替えで確認したいこと
姿勢保持部分を車椅子から取り外し、室内の椅子などへ載せ替えたいと考えることもあります。
しかし、すべての姿勢保持装置が簡単に取り外せるわけではありません。取り外せても、別の台や椅子に置くだけで安全に使用できるとは限りません。
持ち運び前に確認すること
・姿勢保持部分だけを取り外せる構造か
・取り外した部分の重さと大きさ
・取り付けと取り外しを介助者が安全に行えるか
・取り付け先との固定方法が決められているか
・載せ替え後も姿勢や足の位置が合うか
・メーカーや製作事業者が想定した使用方法か
特に、自動車の座席へ載せ替えて使用する場合は、一般的な室内用の姿勢保持装置と、車載用姿勢保持装置を同じものとして考えないよう注意が必要です。
車両への固定、製品と車種の適合、姿勢を支えるベルト、乗員を守るためのシートベルトは、それぞれ役割が異なります。
姿勢保持装置・車載用姿勢保持装置・車椅子の違いは、こちらの記事で詳しく説明しています。
大人になったらバギーから車椅子へ替えるの?
年齢が18歳になったから、必ずバギーから車椅子へ替えるというものではありません。
体格、姿勢保持の必要性、移動場所、介助方法、車への積み込み、本人の操作能力などを確認し、現在の生活に合う移動機器を選びます。
小柄な大人がバギー型の移動機器を使える場合もありますが、身長だけで判断することはできません。製品ごとに対象となる体格、耐荷重、座面寸法、使用目的が異なります。
バギー・車椅子・ベビーカー・姿勢保持装置の違いは、次の記事で比較しています。
小児の姿勢保持装置や成長に合わせた選び方は、こちらの記事で詳しく説明しています。
身体状況が変わったら再調整を検討する
大人は身長の成長が落ち着いていても、姿勢保持装置を作ったときと身体の状態が変わることがあります。
筋力や関節の動き、体重、変形、痛み、呼吸状態、生活環境などが変われば、以前は合っていたシーティングが合わなくなる場合もあります。
次のような変化があれば、我慢して使い続けず、再調整を相談しましょう。
再調整を相談したい変化
・身体の傾きや滑りが強くなった
・赤みや痛みが出るようになった
・頭部や体幹のサポート位置が合わない
・足台に足が届かない、または窮屈になった
・食事や呼吸がしにくくなった
・移乗や介助が難しくなった
・生活場所や移動方法が変わった
医師、理学療法士・作業療法士などのリハビリ専門職、義肢装具士、車椅子や補装具の事業者などに相談し、実際に座った状態を確認してもらうことが大切です。
補装具費支給制度を利用するときの注意点
姿勢保持装置や車椅子は、身体状況や必要性に応じて、補装具費支給制度の対象になる場合があります。
補装具費は、本人や障害児の保護者が市町村へ申請し、必要な判定や意見を経て支給が決定される制度です。
製品を先に購入してから必ず支給される制度ではないため、購入や製作を進める前に、市町村の障害福祉窓口や担当する事業者へ確認しましょう。
補装具の支給方法や必要書類、判定の流れは、年齢、補装具の種類、自治体、身体状況などによって異なる場合があります。具体的な申請手続きは、お住まいの市町村へ確認してください。
補装具費支給制度の対象や申請の流れは、次の記事で詳しく説明しています。
まとめ
大人が姿勢保持装置や車椅子シーティングを選ぶときは、車椅子の機能だけでなく、骨盤、体幹、頭部、脚、クッションなどを含めて確認します。
ティルトやリクライニング、体幹パッド、ヘッドサポートなどが付いていても、本人の身体や生活に合っていなければ、安定した姿勢につながるとは限りません。
また、持ち運びや載せ替えを希望する場合は、取り外せるかどうかだけでなく、取り付け先で安全に固定できるか、想定された使用方法かを確認する必要があります。
身体状況や生活環境は変化します。座りにくさ、傾き、痛み、介助のしにくさなどが出てきたときは、自己判断だけで部品を追加せず、医師やリハビリ専門職、義肢装具士、補装具事業者などへ相談し、シーティングを見直しましょう。


コメント